献氷の茶会

梅雨明け前にすでに猛暑の週を迎えて、献氷の茶会を

開いた。

献氷の儀式は氷の朔日(ついたち)ともいう。

陰暦の六月一日に、氷室の貢ぎとして、氷餅を宮中や

幕府に献上したのが由来とされている。

掻餅やあられを供えて食すと厄除けになるという説も

ある。

最初に氷が献上されたのは六百十二年仁德天皇の時代とされ、

額田の皇子が

闘鶏野(つけの、現在の大阪府高槻付近)で氷室を発見し、

それを献上した。

鎌倉時代には富士山の雪が鎌倉に運ばれた。

日本で人造製氷に成功するのは明治十六年を待たねば

ならなかった。

 

寄付には 店主お気に入りの松本 交山の「つけ㐂」を。

 

別号/次郎吉/景文/大機/文右衛門

文晁、抱一に師事、江戸深川八幡境内の茶屋の主人、

画・俳諧を修め法眼に叙せられる。

慶応二年歿八十三歳江戸深川生

つけぎとは、

ひのき,松,杉など薄く削り,一定の長さと幅にそろえ

一方の端に硫黄をつけ,七~八十枚から 百枚をひと束とし

江戸時代から江戸,大坂で盛んに売られた。

火口 や炭火などから灯火などに火を移すのに使った。

付木はイオウギともよばれ、「祝う」に通じ、魔除け、

贈り物の返礼、引っ越しの挨拶などに贈る風習があった。

 

 

折しも今日は店主の誕生日、仲間の前厄払い、

半年経た厄払いも兼ねてこの軸を選んだ次第。

 

寄付

毎年この時期の茶会は、名水ものになると趣向が凝ることに。

すくすくと育っている、店頭の蓮の葉に、氷を乗せると、

すこしずつ溶けた水が葉にはじかれ、底にたまるのだが、

それが氷のようにみえて、さらに涼を呼んでくれる。

 

「春慶塗 手桶 水指」に水を汲み、

「鶴首 釜」「小型 唐銅 鬼面 風炉」で揃える。

本床

「清流無間断」足立 泰道を本床に。

別号/宗誠

臨済宗大徳寺派、兵庫豊岡瑞龍山雲澤禅寺住職、昭和十二年生

この方の書は人気が高い。

せいりゅうかんだんなし-清らかな流れは絶えることなく流れ、

青々とした木は季節を超えて葉を枯すことなく、

一瞬の中にある自然の永遠をさす。

不断の努力が大きな実りをもたらすという教え。

 

本床 軸

花は 同じく店で育てている睡蓮を 

備前 擂鉢」堀江 祥山 水盤にみたてて。

白い可憐な花で毎朝出迎えてくれる。

 

香合は「団扇 葦蒔絵 香合」中林星山

こちらは涼風を運んでくれるもの。

漆芸、越前蒔絵師。夫箕輪一星に師事。日芸展会員。

茶道具蒔絵専門。昭和二十六年生福井県鯖江

香合

「銘 那智 竹 茶杓

小田 雪窓 (箱書)小堀 定泰(造筒書)

那智の滝を思い浮かべて。

 

信楽 建水」三代 森岡 嘉祥

嘉祥窯は京都清水で四代に渡り、茶道具や器を創作する窯元。

二代嘉祥に師事、茶陶屈指。平成二十一年歿七十二歳京都生

建水

「蝋形鋳造 蟹 蓋置」黒川 哲匠

置物としても美しいが、とても使いやすい考えられた蓋置であった。

高岡の作家、建水、火箸、茶室の釘等、茶道具、花器の制作を研鑽中、

昭和三十六年高岡生

蓋置

茶入は肩に小さな注ぎ口がある「曜変 四滴 茶入」浅見 与し三

初代与し三は、大正元年 二代五郎助の次男より分家し、

五条坂にて開窯。大徳寺塔頭瑞峯院 前田昌道老師より

「吉峯窯」の窯名を賜る。

現在は四代目 (画像 左奥)

曜変 四滴茶入

白磁 めだか 平茶碗」二代目 助田 麗嘉

白磁の中に淡いめだかが泳いでいる。

 

めだか 平茶碗

唐津 茶碗」御茶碗窯、人間国宝 十二代 中里太郎右衛門

 

唐津 茶碗

「瀬戸 唐津 なぎさ 茶碗」加藤 春鼎

別号/春倫

鼎窯窯元、日本工芸会正会員。若い陶芸家の育成にも努め「鼎窯会」を主宰する。

昭和二年瀬戸生

なぎさ 茶碗

「粉引手 茶碗」尾形 周平

京焼の名工。初代は仁阿弥道八の弟。

尾形光琳、乾山に私淑し尾形姓を名乗る。

五代目が平成十一年に没す

こちらを今回 主菓子に。

店主の祝いに、と用意してもらったのは

「御蒸物 お目出糖」

元禄年間創製されたと伝えられる高麗餅は江戸時代より

親しまれてきた。

元禄より家伝の高麗餅仕様書により製造している。
明治中頃に赤飯様の見た目より「御目出糖」と命名

御祝儀菓子としての意匠と共に

大方の御推奨を賜り百年以上になる銘菓。

 

主菓子

干菓子は この時期ならでは、「琥珀糖」高野屋貞広

「ほたてバター」赤坂柿山

水のもの、鮑の貝殻に。

鮑の貝殻は大変丈夫でハンマーで叩き割ろうとしても簡単には

割れないほどであり、

構造をヒントに割れにくい丈夫なセラミックの開発が進められて

いるそうだ。

裏側には非常に美しい真珠の光沢があり、ごく薄く

切り出したものを螺鈿細工などの工芸材料に用いている。

また、鮑玉と呼ばれる天然真珠を作り出すことに着目し、

殻の真珠層を利用して真珠の養殖に使われることもあると

されている。

 

鮑の菓子器

次回は九月頃に集うことになりそうだが、秋は道具選びがより楽しみに。

皆様ごどうぞ自愛ください。